保存科学って、聞き慣れない言葉ですよね。
現役エンジニアの僕も、最近初めて知りました。
科学分野への注目は年々高まっています。
学業の中では『STEM』という言葉も頻繁に使われています。
科学について知っておいて損はないですよ。
本記事では、保存科学をまったく知らない人にもわかりやすく解説しますので、どんな学問で将来どんな活かし方ができるのかを理解できます。
ぜひ最後まで読んでいってくださいね。
保存科学とは何か
保存科学とは、歴史的・文化的な価値を持つ物品や資料を長期間にわたって保存し、後世に伝えるための科学的な技術と方法を研究・実践する学問分野です。
つまり、『歴史や文化を保存するための科学』なので、科学のベクトルが保存に関する技術に向けられます。
保存科学の対象は、アートや書籍、文書、デジタルメディアなど多岐にわたる対象を含み、科学技術によって、それぞれの素材や状態に応じた適切な保存方法を提供します。
また、保存科学は多様な専門知識を必要とし、化学、物理学、生物学、エンジニアリング、さらには情報科学などの学問領域と密接に関連しています。
保存科学者は、これらの知識を駆使して保存対象の劣化を防ぎ、可能な限りそのオリジナルの状態を維持するための手法を開発・適用します。
保存科学の価値
保存科学の価値は、私たちの歴史的・文化的な遺産を保護し、未来の世代に伝えることにあります。
歴史的な遺物や文書は、それぞれの時代の社会、文化、科学技術の発展を物語る重要な証拠です。
これらの資料が劣化して失われると、過去の知識や文化の一部も永久に失われますよね。
例えば、古代の書籍や文書、美術品、建築物には、当時の言語、思想、技術に関する貴重な情報が含まれています。
これらを適切に保存することで、歴史学者や研究者が過去を正確に理解し、現代に生かすことが可能になります。
いまほど『保存』の難しさと重要性が認識されていなかった古代には、歴史学者が泣いて喜ぶような数多の書籍や文章が存在したはずですが、残っていなければそれすらも本当かどうかわかりません。
また、現代では、デジタルメディアの保存も非常に重要な課題です。
デジタルデータはフォーマットの変化や物理的な記録媒体の劣化によって失われるリスクがあるので、これらのデータを安全に保存し、将来的にもアクセス可能にするニーズが確実に存在します。
未来人がしっかりと我々の遺産を受け継げるようにしたいものですよね。
このように、保存科学の取り組みは、単なる物理的な保存にとどまらず、私たちの文化的アイデンティティの維持と未来への橋渡しに不可欠なのです。
保存科学の歴史
保存科学の歴史を古い時代から紹介します。
古代エジプト
ミイラの保存技術が高度に発達しており、防腐処理を施すことで遺体の長期保存が行われました。
数千年も前の人体が残っていることは奇跡のようですが、人類学者からすると極めて稀少でありがたいことなんです。
中世ヨーロッパ
保存の対象は『本』になりました。
修道院の写字室で僧侶たちが手作業で文書を複製し、劣化を防いでいたんです。
紙やインクの改良、保存環境の整備が行われ、貴重な書籍や文書が後世に伝わる基礎が築かれています。
19世紀
保存科学はさらに体系化されました。
特に博物館や図書館の収蔵品の保存が大きな課題となり、科学的な方法が求められるようになりました。
この時期に、化学的な分析や劣化防止のための処理が始まり、保存技術が飛躍的に進展しました。
20世紀
保存科学はさらに大きな発展を遂げました。
世界大戦後、戦争で破壊された文化財の修復が急務となり、各国で保存科学の研究が活発化し、より精密で効果的な保存方法が開発されました。
例えば、酸性紙の中和処理や、温度・湿度を制御する保存環境の整備が進められました。
現代
デジタル技術の進化に伴い、デジタルデータの保存の重要性が増しています。
デジタルアーカイブは、膨大な情報を効率的に保存・管理し、広くアクセス可能にする手段として注目されています。
本や文化祭など、実体のあるものの保存の限界を超えた新しい保存の形が実現しています。
保存科学の基本概念
保存科学の基本概念は、文化財や重要資料を長期間にわたって劣化させずに保存するための原則と手法に基づいています。
保存方法
中心的な保存方法は、物理的保存とデジタル保存の2つです。
物理的保存は、紙、布、金属、木材などの物理的な資料の保存です。
デジタル保存は、デジタルデータの長期保存です。
劣化とその原因
劣化の原因の特定は、保存科学の基本です。
正しく原因を特定できていれば、正しい対策を講じることができますからね。
劣化は、化学的、物理的、生物学的な要因によって引き起こされます。
例えば、紫外線やカビです。これらの要因をさらに細かく特定し、適切な対策を講じることが保存科学の基本です。
修復と保護
原因を特定できると、修復や保護もうまくできるようになります。
修復は、既に損傷を受けた資料を修理し、元の状態に近づける作業です。
保護は、今後の劣化を防ぐための予防措置を指します。
修復と保護のバランスを保つことが、長期的な保存には不可欠です。
保存の技術
保存科学における保存の技術を紹介します。
環境の制御
環境の制御は保存の基本です。
温度、湿度、光の管理が劣化防止に直結します。
高温多湿だと腐食のリスクが高まるし、低温低湿だとパリパリ脆くなってしまうので、ちょうどいい環境を維持することになります。
光の影響を最小限にするために、紫外線遮断フィルムや、適切な照明(低照度・UVカット)を使用します。
物理的保護
外的な刺激や衝撃から守るのが物理的保護です。
例えば、紙資料は適切な素材の箱などにに収納し、書籍は耐久性のあるカバーをかけます。
手袋をつけて扱うのも手ですね。
保存処理技術
例えば、資料の修復と劣化防止のための化学的処理です。
酸性紙と言われる紙があるのですが、酸性紙は時間とともに劣化が進むため、アルカリ性のバッファーを加えて中和し、劣化を遅らせます。
また、金属資料の防錆処理や、木材の防虫処理も重要な保存技術です。これらの処理は、専門の保存科学者や修復士によって慎重に行われます。
参考:東京都立図書館
デジタル保存技術
デジタルアーカイブが考えられますが、物理的な劣化のリスクを回避する有効な方法です。
これは、高解像度のスキャニングや3Dモデリングを使用して、原本を保存しつつデジタルコピーを利用します。
デジタルデータは定期的なバックアップとフォーマットの更新(マイグレーション)により、長期的な保存が確保されます。
参考:大日本印刷
予防保全技術
未来の劣化を防ぐための長期的な取り組みです。
定期的な点検とモニタリングにより、早期に劣化の兆候を発見し、適切な対策を講じます。
また、災害対策として、防火・防水設備の整備や、緊急時の避難計画も予防保全技術の一種です。
保存科学の応用分野
保存科学は、現代社会のさまざまな分野で重要な役割を果たしています。
美術品と文化財の保存
保存科学の最も典型的な応用分野です。
絵画、彫刻、陶器、金属工芸品などの美術品の劣化を防ぎ、修復します。
例えば、『モナリザ』のような古い絵画の色褪せを防ぐために適切な光環境を整えたりします。
書籍と文書の保存
歴史的な書籍や文書を保存するために、図書館に保存して、温度・湿度管理、酸性紙の中和処理などの技術を適用しています。
また、重要な文書はデジタル化され、デジタルアーカイブとして保存されることも一般的です。
デジタルメディアの保存
音声、映像、電子文書などのデジタルコンテンツは、技術の進化とともに迅速にフォーマットが変わるため、適切な保存方法が必要です。
データのバックアップやフォーマット変換、長期保存のためのクラウドストレージの利用などが代表例です。
建築物の保存
歴史的建造物や遺跡の保存には、構造的な安定化や材料の保護が必要です。
日本では、熊本城がいい修復事例です。(参照)
3Dスキャニングやデジタルモデリングを行い、建築物の詳細な記録を残すことも行われています。
これによって、災害や事故等で建築物が損壊しても、修復できますからね。
科学標本の保存
博物館や大学には、生物標本や鉱物標本が保存されています。
これらは研究や教育にとって重要な資源であり、冷凍保存や薬品処理など、標本の種類に応じた保存技術が用いられます。
保存科学に関連する職業とキャリア
保存科学に関連する職業とキャリアは、多様で専門性が高い分野です。
以下に代表的な職業とその役割について紹介します。
保存科学者
文化財や資料の保存に関する科学的研究と技術開発を行う専門家です。
保存環境の管理や劣化防止のための化学処理、物理的修復方法の開発など、多岐にわたる業務を担当します。
保存科学者は、博物館や研究機関で働くことが多く、最新の保存技術を駆使して文化遺産を保護します。
修復士
具体的な修復作業を担当する専門家です。
絵画、彫刻、書籍、文書などの物理的な修復を行い、資料を元の状態に近づけることを目指します。
修復士は、美術館や博物館、専門の修復工房で活動しています。
アーカイブ管理者
歴史的文書や記録の収集、整理、保存、提供を担当します。
デジタルアーカイブの管理やデータベースの運営も行い、研究者や一般市民の利用をサポートします。
アーカイブ管理者は、公文書館や図書館、企業の記録管理部門で働くことが多く、情報の保存とアクセスの両面で重要な役割を果たします。
博物館学芸員
展示品の管理、展示の企画、教育プログラムの実施など、博物館運営における幅広い業務を担当します。
保存科学の知識を活かして、展示品の劣化防止や修復の計画を立てることも重要な役割です。
学芸員は、博物館や美術館、歴史資料館で働き、文化財の保護と普及に努めます。
デジタル保存技術者
デジタルデータの保存と管理を専門とする職業です。
デジタルアーカイブの構築やデータのバックアップ、フォーマット変換など、デジタル保存に関連する技術的な業務を担当します。
デジタル保存技術者は、図書館やIT企業で働き、デジタル情報の長期保存を支えます。
教育・研究職
大学や研究機関で保存科学を教え、次世代の保存科学者や修復士を育成することが求められます。
また、保存科学の分野で新しい知見を生み出し、技術の発展に寄与する研究者も重要な役割を果たします。
保存科学のトレンドと未来
保存科学の分野は、技術の進化とともに常に新しいトレンドが生まれています。
デジタル保存技術の進化
最も顕著なトレンドの一つです。
高解像度スキャニングや3Dモデリングの技術が向上し、従来の物理的保存方法と組み合わせて、より正確で詳細なデジタルアーカイブが作成されています。
人工知能(AI)や機械学習を活用したデータ解析も進んでおり、劣化の兆候を早期に検出するシステムが開発されています。
バーチャルリアリティ(VR)や拡張現実(AR)の活用
これらの技術を利用して、実際の保存対象に触れることなく詳細な観察や教育が可能になります。
例えば、文化財のデジタルツイン(仮想複製)を作成し、VRを通じて世界中の人々がアクセスできるようにする試みが行われています。
持続可能な保存方法
これも重要なトレンドです。
環境に優しい保存材料やエネルギー効率の高い保存施設の開発が進んでいます。
例えば、再生可能エネルギーを利用した温度・湿度管理システムや、無害な保存処理薬品の研究が行われています。
国際的な協力と標準化
文化遺産の保存は国境を超えた問題であり、国際的な基準やガイドラインの策定が求められます。
ユネスコや国際博物館会議(ICOM)などの国際機関が中心となり、保存技術の標準化や知識の共有が進められています。
まとめ
本記事では、保存科学について解説しました。
保存科学とは、歴史的・文化的な価値を持つ物品や資料を長期間にわたって保存し、後世に伝えるための科学的な技術と方法を研究・実践する学問分野です。
貴重な文化遺産などを後世に伝えるために役立てられています。
あなたのキャリアとして、いかがでしょうか?