そういった疑問に答えます。
本記事では、就学前教育について以下の内容をわかりやすく解説します。
本記事の内容
- 就学前教育の定義
- 就学前教育が育むもの
- 公的な支援
- 最近のトピック
- 就学前教育のデメリット
サクッと読めるボリュームなので、最後までお付き合いくださるとうれしいです。
就学前教育(しゅうがくぜんきょういく)とは?
就学前教育とは、『小学校にあがる前の子どもの教育』と解釈できます。
理由は以下の通りです。
まず、一般的に教育を所管する文部科学省は、幼稚園で行われる教育のことを指しているようです。
幼稚園の所管は文科省なので、そう定義するしかありませんよね。
一方で、保育園を所管する厚生労働省は、『就学前教育』という言葉を使っていません。
代わりに、『就学前の子どもに関する教育、保育等に関する○○○』などという法律があり、そういう言い回しを使っているようです。
では、省庁の縦割り問題なんて関係ない自治体はどうでしょうか。
例えば東京都渋谷区は、『渋谷区就学前教育プログラム』を実行しているのですが、保育園も幼稚園も特に区別せず、『小学校にあがる前の子どもの教育』と扱っているように読めます。
僕は、渋谷区などの自治体のように『小学校にあがる前の子どもの教育』と解釈していいと思います。
子どもが育つことに関して、省庁の縦割りなんてクソ喰らえですからね。
就学前教育が必要な理由
結論:学力とQOL
ある研究結果に基づくと、就学前教育が必要な理由は、
- 子どもの学力を高めるため
- 就学前〜小学校時代の学力やQOLを高めるため
と言えそうです。
理由
慶應大学の赤林教授らは、保育園と幼稚園の子どもに関して、学力やQOL(生活の質)の比較調査を行ったんです(調査結果)。
結果のポイントは以下です。
- 私立の幼稚園の在園年数が長いと、学力が相対的に高い
- 私立幼稚園や私立保育園の在園年数が長いと、QOLが相対的に高い
- QOLの差は年齢とともになくなる
教育に重点を置くのが文科省所管の幼稚園だと考えれば、私立幼稚園で就学前教育をしっかり行った結果、学力や低年齢期のQOLが相対的に高くなると言えます。
私立幼稚園。。。結局お金かよ。。と思っちゃいますよね。
そのような悲しい連鎖を断ち切るように、これからの就学前教育があるので、期待しましょう!
アメリカで行われているペリー就学前プロジェクトでも、その有効性・重要性が確認されています。
就学前教育が育むもの
全体構造
全体構造としては、まず、就学前教育を『5つの領域』にわけます。
この5つの領域において教育を行うのですが、ゆるぎない『3つの柱』が存在します。
3つの柱に沿うようにカリキュラムが組まれているわけですね。
その結果として、小学校にあがる前までに育てておきたい10個の項目を『10の姿』として掲げています。
個別に説明しますね。
5つの領域
5つの領域は以下のとおりです。
- 健康
- 人間関係
- 環境
- 言葉
- 表現
実はこの5つの領域は文部科学省も厚生労働省も同じことを言っています。
文部科学省は『生きる力の基礎』と表現していますね。
各領域の概要を記載しておきますので、詳細は上記の文部科学省の資料をご覧ください。
健康
健康な心と体を育て,自ら健康で安全な生活をつくり出す力を養う。
人間関係
他の人々と親しみ,支え合って生活するために,自立心を育て,人とかかわる力を養う。
環境
周囲の様々な環境に好奇心や探究心をもってかかわり,それらを生活に取り入れていこうとする力を養う。
言葉
経験したことや考えたことなどを自分なりの言葉で表現し,相手の話す言葉を聞こうとする意欲や態度を育て,言葉に対する感覚や言葉で表現する力を養う。
表現
感じたことや考えたことを自分なりに表現することを通して,豊かな感性や表現する力を養い,創造性を豊かにする。
ここまでで、保育・幼児教育の領域を5つにわけました。
そのうえで、3つのだいじな資質と能力を『3つの柱』として掲げています。
小学校にあがるまえに身につけておきたい資質と能力に関して、3つのポイントがあるということですね。
3つの柱
知識・技能の基礎
遊びや生活の中での豊かな経験を通して、何を感じ、気づき、理解し、できるようになるのか、という視点です。
思考力・判断力・表現力の基礎
遊びや生活の中での気づきや習得したことを使いながら、どう考え、試し、工夫し、表現するか、という視点です。
学びに向かう力・人間性等
心情・意欲・態度が育つ中で、いかによい生活を営むか、という視点です。
確かにこれら3つの資質・能力が育てば、人生がとても豊かに充実していくでしょうね。
幼児教育では、この3つの柱に沿って、カリキュラムが組まれているのです。
10の姿
ここまで、5つの領域をわけたうえで3つの柱に沿って就学前教育が行われると説明しました。
こうした就学前教育によって、小学校にあがるまえにどのような姿になっててほしいのか。
それをまとめたものが『10の姿』です。
文部科学省の資料も、厚生労働省の資料(第一章第一条第三項(3))も『10の姿』は同じです。
以下では厚生労働省の資料を使っているので『保育園』のキーワードが出てきますが、文部科学省の資料では『幼稚園』となります。
健康な心と身体
保育所の生活の中で、充実感をもって自分のやりたいことに向かって心と体を十分に働かせ、見通しをもって行動し、自ら健康で安全な生活をつくり出すようになる。
自立心
身近な環境に主体的に関わり様々な活動を楽しむ中で、しなければならないことを自覚し、自分の力で行うために考えたり、工夫したりしながら、諦めずにやり遂げることで達成感を味わい、自信をもって行動するようになる。
協同性
友達と関わる中で、互いの思いや考えなどを共有し、共通の目的の実現に向けて、考えたり、工夫したり、協力したりし、充実感をもってやり遂げるようになる。
道徳性・規範意識の芽生え
友達と様々な体験を重ねる中で、してよいことや悪いことが分かり、自分の行動を振り返ったり、友達の気持ちに共感したりし、相手の立場に立って行動するようになる。
また、きまりを守る必要性が分かり、自分の気持ちを調整し、友達と折り合いを付けながら、きまりをつくったり、守ったりするようになる。
社会生活との関わり
家族を大切にしようとする気持ちをもつとともに、地域の身近な人と触れ合う中で、人との様々な関わり方に気付き、相手の気持ちを考えて関わり、自分が役に立つ喜びを感じ、地域に親しみをもつようになる。
また、保育所内外の様々な環境に関わる中で、遊びや生活に必要な情報を取り入れ、情報に基づき判断したり、情報を伝え合ったり、活用したりするなど、情報を役立てながら活動するようになるとともに、公共の施設を大切に利用するなどして、社会とのつながりなどを意識するようになる。
思考力の芽生え
身近な事象に積極的に関わる中で、物の性質や仕組みなどを感じ取ったり、気付いたりし、考えたり、予想したり、工夫したりするなど、多様な関わりを楽しむようになる。
また、友達の様々な考えに触れる中で、自分と異なる考えがあることに気付き、自ら判断したり、考え直したりするなど、新しい考えを生み出す喜びを味わいながら、自分の考えをよりよいものにするようになる。
自然との関わり・生命尊重
自然に触れて感動する体験を通して、自然の変化などを感じ取り、好奇心や探究心をもって考え言葉などで表現しながら、身近な事象への関心が高まるとともに、自然への愛情や畏敬の念をもつようになる。
また、身近な動植物に心を動かされる中で、生命の不思議さや尊さに気付き、身近な動植物への接し方を考え、命あるものとしていたわり、大切にする気持ちをもって関わるようになる。
数量・図形、文字等への関心・感覚
遊びや生活の中で、数量や図形、標識や文字などに親しむ体験を重ねたり、標識や文字の役割に気付いたりし、自らの必要感に基づきこれらを活用し、興味や関心、感覚をもつようになる。
言葉による伝え合い
保育士等や友達と心を通わせる中で、絵本や物語などに親しみながら、豊かな言葉や表現を身に付け、経験したことや考えたことなどを言葉で伝えたり、相手の話を注意して聞いたりし、言葉による伝え合いを楽しむようになる。
豊かな感性と表現
心を動かす出来事などに触れ感性を働かせる中で、様々な素材の特徴や表現の仕方などに気付き、感じたことや考えたことを自分で表現したり、友達同士で表現する過程を楽しんだりし、表現する喜びを味わい、意欲をもつようになる。
以上のようなことを小学校にあがる前までに行うのが、就学前教育です。
保育園、幼稚園、その他の施設も問わず、『小学校にあがる前までにこんなふうに育ってくれてたらいいなぁ』という国からの期待です。
では、国はどんな支援をしてくれているのか見ていきます。
就学前教育のための公的支援
公的支援は数え出したらたくさんあるのでしょうが、わかりやすいものをピックアップしてお伝えします。
子ども家庭庁
実は内閣府の外部組織として、『子ども家庭庁』がつくられる予定なのです。
令和5年(2023年)4月1日に施行される法律で定められています。
子ども家庭庁の役割は多いですが、そのひとつに以下があります。
『小学校就学前のこどもの健やかな成長のための環境の確保及び小学校就学前のこどものある家庭における子育て支援に関する基本的な政策の企画及び立案並びに推進』
ここには就学前教育も含まれるはずですから、色々な支援制度が充実してくると期待できますね。
地域子育て支援拠点事業
厚生労働省の事業で、『地域子育て支援拠点事業』があります。
あなたの地域にも、
- ○○ひろば
- ○○センター
- ○○児童館
ってありませんか?
実は厚生労働省の事業だったりします。
地域のつながりが希薄になってしまい、周囲の助けを求めにくくなっている状況があるので、育児の負担増・孤立化が問題視されています。
こうした地域の施設に気軽に集まって交流ができれば、親御さんの孤立感は減るし、子どもにとってもさまざまな経験を得ることができます。
ちなみに、僕も児童センターには通い詰めていました。
今になって厚生労働省が動いていたなんて知ると、少しは政治を信じようと思いますね。
家庭教育支援チーム
文部科学省の事業で、『家庭教育支援チーム』があります。
チームは登録制になっていて、こんな人たちがチームメンバーになっています。
- 子育てサポーター
- 保育士
- 臨床心理士
- 元教員
- 児童・民生委員
- ボランティア
- 保健師
- スクールソーシャルワーカー etc.
家庭教育支援チームのやることはこんな感じです。
- 自主講座を開催し、保護者向けに家庭教育を学ぶ機会を提供
- 集会所等でボランティアが子どもと遊びつつ、親同士の交流の場を提供
- 学校や園と連携し、専門家が家庭を訪問し、カウンセリング等によって保護者をサポート
チームのロゴマークまであるんですよ。
ある程度は報酬もあるみたいですね。
就学前教育の最近のトピック
就学前教育に関して、文部科学省がある調査に乗り出すとのニュースがありました(2023年2月27日)
調査内容は、就学前の教育や体験活動、家庭環境などが、大人になってからの人生にどのような影響を与えるのか?です。
成人後への影響がわかれば、就学前教育のあり方が変わってくるでしょうね。
就学前教育のデメリット
就学前教育はバラ色ではありません。
注意しておく点はありますので、説明します。
費用がかかる
就学前教育では、保育園や幼稚園、プリスクールなどに通うことが一般的であり、たいていは費用がかかります。
致し方ないですが、現実的な問題として捉えておく必要かあります。
内容に縛られがち
遊びや自由な発想が重要な幼児期に、プログラムに縛られた学習が行われることがあるため、子どもたちの自己肯定感や創造力が損なわれる可能性があります。
モンテッソーリ教育のように、のびのびと個人を伸ばすものであればいいんですけどね。
モンテッソーリ教育とは?1記事で簡単に理解できるまとめ記事
子どものためにモンテッソーリ教育とは何なのか調べているんだけど、簡単に学べるサイトはないかなぁ?? そんな声にお応えするために、モンテッソーリ教育の全体像がわかる記事をご用意しました。 ...
続きを見る
子どもの発達に合わない場合もあり
就学前教育のプログラムや環境が、個々の子どもに合わない場合があります。
無理やり参加させることで、子どものストレスや不安が抱えさせてしまう可能性があります。
家庭とのバランスの問題
幼児期において、家庭も重要な成長の場です。
就学前教育に通うことで、家庭にいる時間が減り、家庭とのバランスが取れなくなる可能性もあります。
まとめ
本記事では、就学前教育とは何なのかを解説しました。
以下にまとめます。
本記事のまとめ
- 就学前教育とは、『小学校にあがる前の子どもの教育』と解釈できる
- 就学前教育が必要な理由として以下が考えられる
- 子どもの学力を高めるため
- 就学前〜小学校時代の学力やQOLを高めるため
- 就学前教育の全体構造は以下
- 5つの領域
- 3つの柱
- 10の姿
- 公的支援の例
- 子ども家庭庁
- 地域子育て支援拠点事業
- 家庭教育支援チーム
- トピック:文部科学省が就学前教育の影響に乗り出す
- 就学前教育のデメリット
- 費用がかかる
- 内容に縛られがち
- 子どもの発達に合わない場合もあり
- 家庭とのバランスの問題