『生命科学』という言葉も難解ですからね。
そこに『量子』なんていうぶっ飛んだワードが組み合わさるのですから、さらにわかりにくいですよね。
本記事では、『量子生命科学』とは何なのか、『量子生命科学研究所』が何を研究するところなのかについて、初心者にもわかりやすく解説します。
ぜひ最後までお付き合いくださいね。
量子生命科学について
量子生命科学とは
量子生命科学は、量子力学の基本概念を生命現象に適用し、生命の本質を解明しようとする新興分野です。
量子力学とは、微小なスケールでの物質の振る舞いを説明する物理学の一分野で、電子や光子などの微粒子がどのように振る舞うかを解明します。
量子もつれや波動関数の重ね合わせといった現象は、日常生活では理解しがたいものですが、量子生命科学ではこれらの現象が生命現象にどのように影響を与えるかを研究しています。
僕は学生時代に量子を専攻していたのですが、まさにこれから色々なことがわかっていく学問分野なんですよ。
伝統的な生命科学との違い
伝統的な生命科学との違いは、量子生命科学が生命現象を量子レベルで理解しようとする点にあります。
従来の生命科学は主に分子生物学や遺伝学の観点から生命を研究してきましたが、量子生命科学はさらにミクロなレベルである原子や電子の挙動を探ることで、生命現象の深層に迫ろうとしています。
従来の生命科学は、主に化学的および生物学的プロセスを探求しますが、量子生命科学はミクロレベルの物理学的な視点からこれらのプロセスを解明しようとします。
このアプローチにより、従来の手法では解明できなかった生命の謎が明らかになる可能性があります。
量子生命科学研究所の概要
研究所の設立背景と目的
量子生命科学研究所は、量子科学技術研究開発機構(QST)の中の一部門です。
QSTは、原子力関連に携わる人の間ではあまりに有名な研究機関です。
量子生命科学研究所の設立の趣旨は、以下のように述べられています。
『量子科学技術研究開発機構(QST)で進められてきた量子科学技術の研究をさらに発展させ、量子論・量子技術と生命科学を融合するための研究開発を推進し、国内外の優秀な研究者を結集することにより、量子生命科学研究の世界的拠点を構築するため』
量子生命科学研究所は、国内外の大学や研究機関と連携し、最新の研究成果を共有しながら、量子生命科学の研究を推進しています。
また、若手研究者の育成にも力を入れており、次世代の科学者がこの分野で活躍できるような環境を整えています。
テーマ
量子生命科学研究所では、以下の3つのテーマを掲げて、日々研究を行っています。
- 量子計測・センシング技術
- 生命現象の量子論的解明・模倣
- 量子生命科学分野の人材育成
『量子計測・センシング』が聞きなれないと思うので簡単に解説すると、量子力学の原理を利用して物理量を高精度で測定する技術です。
これにより、従来の技術では検出困難な微小な物理現象や生体内の変化を捉えることが可能になります。
量子センサーや量子ビットを用いることで、例えば磁場、電場、温度などの計測が極めて高精度で行えるようになります。
この技術は医療、材料科学、基礎物理学など幅広い分野で応用されていくでしょう。
注目の研究成果
ダイヤモンドを利用した生体ナノ量子センサ
これは、細胞レベルの変化を検知するためのセンサとして使われるものです。
実は、ダイヤモンドは非常に安定な物質なので、人体に入れても無害です。
『ナノ』とあるので、ナノサイズのダイヤモンドを使います。
原理はややこしいので、簡単化して説明しますね。
ダイヤモンドの炭素の結晶構造の中に、特殊な操作で窒素原子(Nitrogen)と空孔(Vacancy)を隣り合わせた『NVセンター』を作るんです。
このNVセンターは、周囲の温度や磁場、電場等によって異なる状態をとることがわかっているので、外部からこれまた特殊な方法でNVセンターの状態を知ることができます。
そうすると、NVセンターの周囲でどんな変化が起きているかがわかるので、細胞レベルの微小な変化を検知することができるんですよね。
つまり、体内の異常事態を超早期に発見することができるようになるわけです。
量子生命科学研究所では、独自に開発した方法によって、ナノダイヤモンドの内部に安定したNVセンターを多数形成することに成功しています。
人工光合成
人工光合成は、植物が行う光合成を人工的に起こすものです。
そうすれば、植物に頼ることなく大気中の二酸化炭素を吸収して酸素を出し、炭化水素を生産することができるようになります。
そして、植物の光合成においては、タンパク質が光エネルギーを電気化学エネルギーに変換する重要な役割を担っていることがわかってきています。
量子生命科学研究所では、そのタンパク質を試作しながら、量子計測技術を駆使して光合成のメカニズムの把握に邁進しています。
量子生命科学の展望
医療分野での革新
量子生命科学の研究は、医療分野に革命をもたらす可能性があります。
例えば、量子ドットを用いた高解像度バイオイメージング技術は、がんや神経疾患などの早期発見と診断を大幅に向上させるでしょう。
また、量子力学的な視点から設計された新しい薬剤は、従来の治療法では効果が得られなかった疾患にも効く可能性があります。
エネルギーと環境分野への応用
量子生命科学の研究は、エネルギー変換技術にも応用されます。
上述したとおり、植物の光合成メカニズムを理解することで、より効率的な人工光合成システムの開発が可能となり、持続可能なエネルギー源としての可能性が広がります。
また、量子センサーを利用した環境モニタリング技術も開発され、より精度の高いデータ収集が可能となります。
これにより、環境保護や気候変動対策にも大きく貢献するでしょう。
ナビゲーションと通信技術の進化
鳥類は、地磁気を察知して迷わずに飛行することが知られています。
その地磁気感知メカニズムを解明して応用することで、より高精度なGPSや新しい通信技術の開発が進むと考えられています。
まとめ
本記事では、量子生命科学研究所について解説しました。
ポイントをまとめます。
本記事のポイント
- 量子生命科学
- 量子力学の基本概念を生命現象に適用し、生命の本質を解明しようとする新興分野
- 従来の『生命科学』が分子生物学や遺伝学などによることと対照的に、量子生命学はさらにミクロなスケールを扱う『量子力学』を取り入れる
- 量子生命科学研究所
- 量子科学研究開発機構(QST)の一部門
- 目的は以下
- QSTで進められてきた量子科学技術の研究の発展
- 量子論・量子技術と生命科学を融合するための研究開発を推進
- 国内外の優秀な研究者を結集
- 量子生命科学研究の世界的拠点を構築
- 量子生命科学研究所の成果の例
- ダイヤモンドを利用した生体ナノ量子センサ
- 人工光合成
- 量子生命科学の展望
- 高解像度バイオイメージング技術による、がんや神経疾患などの早期発見と診断
- 量子力学的視点で開発された薬剤の革新的な薬効
- 光合成メカニズムの解明と人工光合成の確立
- 高解像度の環境センサーによる気候変動への対応
- 鳥類の地磁気センサーの解明による高精度なGPSの開発